2012年8月29日水曜日

2012年8月6日月曜日

GDC会場でデモが行われた「FINAL FANTASY XIV」とDolby Pro Logic IIzによるリアルな空間的音響表現

GDC 2011会場で,Dolby Laboratolies(以下Dolby)は同社の「Dolby Pro Logic IIz」のゲームによる応用デモを公開した。Dolby Pro Logic IIzとは,5.1chや7.1chといったDolby Pro Logicのサラウンド環境に,2本のフロントハイトスピーカーを加えた形式だ。通常より高い位置に置かれたスピーカーは,高さ方向の情報を付加し,音場をさらに広げる役目を果たす。垂直方向(3Dゲームとは座標系が違うがZ軸と呼んでいる)を加えるのでIIzという名前が付けられている。とはいっても,別に新しい技術というわけではない。技術自体は数年前に作られたもので,すでに民生用でも対応製品は出回っているのだが,GDC 2011会場のDolbyブースでは,この技術のゲームでの活用についてのデモが行われたわけだ。今回はスクウェア?エニックスのMMORPG「FINAL FANTASY XIV」(以下,FFXIV)のシーンをIIz対応にしたゲームクライアントで動作させた状態のムービーという形で,IIzがゲーム内でどのような効果をもたらすのかが披露された。以下,音響関係の技術なので客観的な表現が難しく(一応録音はしたのだが),筆者の主観による評価となることをお断りしつつ,デモの模様を紹介してみたい。森の中。環境音が自然に広がる。森の空気に包み込まれる感じムービーは,森の中,FFXIVベンチマークでもお馴染みとなる導入部の戦闘や,街の中の喧騒などいくつかのシーンに分かれており,環境音の状態もそれぞれ異なっている。まず,立体表現について。隕石が落ちてくるシーンや街中では上空に花火が上がっている映像があり,破裂音などが上から聞こえてくる。IIzでは,原理上,低音部を上に持ってくることはできないそうで(まあ,バスレフは下にしかないんだから当然かもしれないが),花火やヘリコプターのローターの音など,頭上からの爆音系はやや苦手。今回のデモでも,花火の音はサウンドデザイン上で低域をカットしているのことで,そのほうがよい仕上がりになるようだ。ある程度上から聞こえるのは確かだが,スピーカーの配置からして,やはり上というより前方から聞こえるので,真上やかなり高いところでの音を表現するというのはちょっと厳しそうだ。デモを行ったスクウェア?エニックスのサウンドデザイナー五十川祐次氏によると,サウンド設計自体は45度の角度を想定して行っているという。リアスピーカーは含まれないがシステムの様子。上にフロントハイトスピーカーが設置されている。中段に並んだ黒いモノはスピーカーかと思って聞いたらただの紙袋だった後ろ側にさらに2個スピーカーを追加したほうがよいのではないかと聞いてみたのだが,増やせばいいというものでもないそうで,人間の耳が前方に対しては細かく聞き分けられるが,後方に対してはさほどでもないため,前方のみの配置になっているという。とはいえ,7.1以外に9.1までサポートされているのだから,2個の場所を変えるだけじゃないかと思うのは私だけだろうか。上4下4+1の9.1なら,上方で前後の定位も定まるので,音源の動き回るゲーム向けではむしろ必然な気がするのだが。ちょっと期待していた高さ表現に関していえば,いま一つという印象ではあったものの,普通の環境音などの音場が凄い。森の中や街の情景などが,音による描写だけでも素晴らしく濃厚になっている。こういったシーンでは,立体的というか,広がりが自然でまさにサラウンドな感じで音に包まれる。ちょっと表現しにくいのだが,5.1サラウンドでリスナーの周りに広がった音場が,ハイトスピーカーを加えることによって,ぐんと厚みを増す感じだ。おそらく単にスピーカー数が多いからというよりは,上下の情報を耳が聞き分けているのだろう。加えて,森の中での鳥のさえずりなどが自然に上から聞こえてきて非常にリアルだったことが印象的だ。これはとくにデザインしたものではなく,アンプ側が自動的に上方に振り分けているものだという。つまり,普通の平面的なサウンドデザインの音でも,ある程度は自動で空間の厚みを出せるようになっているので,専用の音響デザインを施されたゲーム以外でもある程度有効に使えそうだ。高さ情報が追加されていることから,高低差のあるレベルでのFPSなどについて,ある程度プレイしやすくなることも期待できるのだが,前述のように,はっきりした定位が定まるわけではない。むしろ,MMORPGなどの没入系体験ができるゲームでのリアリティ補強にこそ威力を発揮しそうな感じだ。イマーシブな音環境なので,大画面立体視などとの相性もよさそうだ。デモを披露してくれたスクウェア?エニックス サウンドデザイナー レコーディングエンジニアの五十川祐次氏今回はアメリカでのデモンストレーションということもあってムービーに仕上げているもののみなのだが,実機でのインタラクティブデモではいっそう空間の広がりを体験できるという。高さを使った表現などについても,「予想以上にイメージどおりに再現できる」(五十川氏)とのことで,今後は積極的にゲームでの空間的なサウンド表現を生かしたタイトルも出てくるのかもしれない。Pro Logic IIz対応のアンプは,すでに2年前から発売されており,比較的最近Dolby Pro Logic対応のアンプを買ったという人であれば,まず間違いなく対応しているとのこと。5chなどに合成されてアンプに通されるので,Dilby Pro Logic対応なら既存のサウンドカードで対応可能。最新技術だが,すでに意外と身近なところにまでやってきている。ちなみに,FFXIVでいつこれが導入されるかなのだが,実際にゲームに投入される時期は未定としていたものの,サウンドエンジンへの組み込みはすでに出来上がっていて,現在調整中とのこと。IIz対応のアンプを使っているFFXIVプレイヤーは,いましばらくお待ちを。サウンドエンジン自体はFFXIVだけで使っているものでもないとのことなので,ほかのゲームで対応してくる日もそう遠くはないのだろう。日本ではIIzを再生できる環境を作ること自体,ハードルが高かったりするのだが,ゲーム音響の可能性が広がったことで,新たな表現も出てくることだろう。現状のゲームでも2chステレオ以上の表現が施されているものも少なくないので,ゲーム環境をよりリッチにしたいなら,サウンド環境を整備してみるのもよいかもしれない。ドルビージャパン Pro Logic IIz解説ページ http://www.dolby.co.jp/consumer/understand/playback/dolby-pro-logic-iiz.html